舞台はココ! 活字の世界の南房総【3】海の見える街 畑野智美著
南房総の海は「青春」と相性がいい!(2)
こんにちは、南房総市和田町在住のあわみなこです。
2014年3月に東京都調布市から移住してきました。
この地を愛する私は、南房総を舞台とする映画、小説、エッセイなどは見逃さないようにしています。
今回は畑野智美氏の著作「海の見える街」を紹介します。
舞台は南房総市!?
最初から最後まで具体的地名は一切出てきませんが、舞台が南房総市であることはほぼ確実と思われます。
この本(講談社刊 単行本)の表紙に描かれている電車は、まさに「内房線」。
どんぴしゃりで「ここだ!」と言えないのですが、市内でも北の方の岩井か、鋸南町の勝山あたりでこんな風景を見たような気がします。
南房総マニアの方、ご存知でしたらご一報を。
舞台が南房総市であることの、もうひとつの根拠は「市内には図書館が分館を入れて7館あり」(P30)というところです。千葉県内の海が見える町で市内に7つもの図書館があるのは南房総市だけ。2006年(平成18年)に7つの町が合併してひとつの市になった関係で、規模は小さいものの、旧の町ごとの図書館が残りました。
内房の海のような読後感
さて、海の見える街の図書館で働く4人の男女の物語。
4人とも20代なかばから30代前半の若い人たちです。
それぞれの視点で語られ、物語が進んでいくので単調にならず、飽きることなくあっという間に読み終えてしまいます。
派遣ワーカーとしてこの街の図書館にやってきたワケアリの「本なんかほとんど読まなかった」春香。
本好きで図書館を愛する司書の本田君と日野さん、図書館の1階下の児童館で働く小児性愛者の松田君。
海の見えるのどかな田舎町で働く4人はそれぞれにけっこうな傷を負っていたりしますが、共に1年過ごす間に成長していきます。
登場人物の悲しみや苦しみがそれなりに描かれている割には、読み手が巻き込まれにくく、静かに見守れるように感じました。
舞台が南房総となると、何を描いても根底におおらかさと健康さがにじみでてしまうような気がします。
よく晴れた日、南房総の比較的波が穏やかな内房の海に、さざ波が立っているような読後感で、おすすめの一冊になりました。
「もし映画化するなら配役は…」などと想像するのも楽しいですね。
2021年1月現在、単行本は入手が難しくなっているようですが、講談社文庫、kindleで読めます。