舞台はココ! 活字の世界の南房総【5】贄(にえ)の夜会 香納諒一著 文藝春秋
こんにちは、南房総市和田町在住のあわみなこです。
2014年3月に東京都調布市から移住してきました。
この地を愛する私は、南房総を舞台とする映画、小説、エッセイなどは見逃さないようにしています。
これは面白い!
読み始めるととまりません。ミステリー小説の出だしとしてはオーソドックスなパターンですが、最初のシーンから引き込まれてしまいました。
展開も複雑過ぎず安直過ぎず、スピーディで読みやすく、登場人物もそれぞれに魅力的です。ボリュームのある作品ですが、最後まで退屈することなく読めました。
この小説は、私が好きな娯楽小説の条件を満たしています。
それは、カタルシスがあること、後味が悪くないこと、恋愛や友情などの人間関係が上手く描かれていること、地理上の舞台がそれなりに魅力的に書かれていることなど――です。
南房総の出番は短いとはいえ…
残念ながら南房総が主な舞台になっている訳ではなく、作中にでてくる場面はほんの少し。
しかも物語終盤に近づいてからになります。
この物語の主人公である警視庁捜査一課の刑事、大河内茂雄が別居中の妻を訪ねます。
妻の住まいが白浜町という設定。
さまざまな悲しみ、苦しみに打ちひしがれた彼が「刑事を辞めよう」と考えたとき、思わず妻のところに足が向いたのでした。
ここで、しばし舞台は白浜町に移りますが、主人公が白浜町で過ごせたのはたったの一晩でした。事件が急展開したからです。そこから物語は一気にクライマックスに向かいます。
ぐいぐい読ませる展開の中、主人公が白浜町で過ごすわずかな時間が、読み手にとっても貴重な休息時間に感じられました。
筆者の香納諒一氏は神奈川県横浜市出身。出版社に勤務しながら小説を書き始めて専業になり、1999年には「幻の女」で第52回日本推理作家協会賞をしました。
2007年には、この「贄の夜会」が「このミステリーがすごい!」の7位にランキングされました。納得の筆力です。