南房総市富山(とみやま)地区は、「道の駅 富楽里とみやま」や、関東百名山に選定されている「富山(とみさん)」がある地区です。富山学園では、0歳から15歳までの子どもたちが同じ敷地内で生活しています。7年生と1年生が一緒に凧あげをしたり、9年生と子ども園の園児たちが一緒にドッジボールをしたりと、ともに遊び、ともに学びながら学園生活を送っている生徒たち。今回は、中学1年生(7年)を対象に行われたデジタルアートワークショップの様子を紹介します。
デジタルアートワークショップってなに?
児童や青少年にIT教育の支援事業を行っている、公益財団法人CTC未来財団(以下、CTC未来財団)。児童・生徒一人一台配備された学校の端末を利用して、同世代のアーティストである柳生千裕(やぎゅうちひろ)さんの線画に色をつけていくのが、デジタルアートワークショップです。
柳生さんは、この春(2024年)高校に入学する新高校1年生です。5歳のときに自閉症スペクトラム(ASD)と診断を受け、小学4年生のときに父親からプレゼントされたカラーマーカー「コピック」がきっかけで、色に目覚めました。第28回花の絵コンクール神戸市長賞や、コピックアワード2019(18歳以下の応募者対象)「次世代アーティスト賞グランプリ」を受賞し、現在も「見た人が楽しく元気が出る絵」を目標に創作活動をしています。
柳生さんが描いた犬やチンパンジー、ライオンの線画に、端末描画ソフトで好きな色を付けて創作し、最後はグループを代表して作品について発表してもらいます。同年代の柳生さんが講師を務めることもありますが、今回は予定が合わなかったためCTC未来財団の酒井裕美子さんと、中千鶴さんが講師を務めました。
デジタルネイティブの生徒も、アナログ派の先生も熱中
窓から菜の花畑が見える美術室に集まった、27名の生徒たち。講師にあいさつをして、ワークショップがスタートしました。まずは、柳生さんが制作している様子を大型モニターで紹介。柳生さんは「好きな色を大胆に色付けするのがポイントです」と、動画でアドバイスをくれました。
一週間ほど前に、今回利用する描画アプリ「Sketches」を使って色を塗る授業を行っていたこともあり、生徒たちは慣れた様子でアプリを立ち上げ、画面を拡大したり、色を選んだりして創作活動に熱中していきました。
美術の授業として行われたワークショップでしたが、他の教科の先生も入れ替わり立ち代わり様子を見に訪れ、なかには生徒に使い方を教わりながら創作に集中する先生の姿も。
講師や取材関係者など、いつもと違う大人たちが出入りしても気にすることなく、自分たちの世界へとのめり込んでいく生徒たち。柳生さんのX(旧Twitter)を自分で見つけて彩色の参考にしたり、アプリにあるパターン機能を活用してオリジナリティを表現したりする生徒もいました。
2コマ目の後半は、3人のグループから各1名が前に出て、作品について発表してもらいました。「チンパンジーが野生にいるのをイメージしました」と発表する生徒や、「大阪のおばちゃんをテーマにヒョウ柄を入れて、なるべくピンクと黄色の2色になるよう工夫しました」と、パターンを使ってヒョウ柄やハートの模様を入れたチンパンジーを完成させた生徒も。
「炎色反応の色を、覚え方の順番で右から塗りました」と、色や順番を説明するユニークな生徒もいて、講師を驚かせました。ふらっと見に来たまま最後まで創作活動に集中していた先生は、「すごく楽しくて、ずっとここにいてしまった」と、デジタルアートワークショップを大いに堪能し、「サイボーグライオン」と名付けた作品を披露してくれました。
2コマの授業でしたが、「時間が足りなかった」という声があったくらい生徒たちは楽しんでいて、見ていた大人も「こんな授業私も受けたかった」と、うらやましくなるワークショップでした。
デジタルアートワークショップ開催のきっかけ
教務主任の篠原準先生に、なぜデジタルアートワークショップを行おうと思ったのかを聞いてみました。
「ふだんの授業であまりやっていないことをできるのが大きいですね。同世代のアーティストが描いたものを、生徒たちがどう見るかも知りたかった。テストのように能力差が極端に出ず、一緒に体験できるのは大きいと思います」
講師を務めたCTC未来財団の中さんは、「アプリを使いこなしたからこそ、独自性を見つけて表現にいかされていました。同じアプリでも違うアプローチをしたいということだったので、何か関連付けできる助けになっていたらうれしいです」と話してくれました。
CTC未来財団の酒井さんは、「単色を塗るだけではなく、描画アプリの機能をいかして模様をつけてそこに色を重ねるという、私たちも見いだせていなかった複雑な塗り方をしていて、さすがデジタルネイティブの生徒たちだと思いました」と感想。
トライして、ダメだったら前に戻って違う色ややり方で塗り直し、最終的に一つの作品に仕上げ、それをみんなでシェアする。このワークショップは、生徒にとっても指導者にとっても、新たな発見や達成感を得るものになったのではないでしょうか。
「生徒たちのコメントが、柳生さんに届くといいな」と、つぶやいた篠原先生。「大人とオンラインでつないで交流することはやっていますが、『総合』※1や『特活』※2の授業で、同世代の柳生さんとオンライン交流ができればと思います」と、篠原先生から次につながる声があがりました。
※1:総合的な学習(探究)の時間は、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしている(文部科学省「総合的な学習(探究)の時間」より) ※2:望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り,集団の一員としてよりよい生活や人間関係を築こうとする自主的,実践的な態度を育てるとともに,自己の生き方についての考えを深め,自己を生かす能力を養う(文部科学省「学習指導要領「生きる力」)
全国の希望校や教育機関に、公益財団が提供していること
小学校5、6年生を対象としたプログラミング教育教材の無料貸し出しや、同じく小学生を対象にした情報科学の学習教材「ビーバーチャレンジ学習カード」の無料配布を行っています。すでに多くの学校や教育機関で利用されていて、その様子はCTC未来財団のwebサイトで紹介されています。ITの授業を受けたことがない世代にとって、その内容はとても興味深く、授業でこんな体験ができるのはうらやましい限りです。
今回のデジタルアートワークショップは、CTC未来財団が中学生向けに考えて、昨年(2023年)から実施しているもの。特別支援学級の生徒たちに、同学年の柳生さんが講師として指導した際は、生徒にとっても柳生さんにとってもいい経験になったようです。
まとめ
CTC未来財団は、子どもたちが楽しく学べる機会を無料で提供しているので、南房総でも利用する学校や教育機関が増えて、新たな学びを得る機会が増えることを願います。 ワークショップや貸出教材に関するご希望やご質問は、CTC未来財団にお問い合わせください。
富山学園での活動レポート:https://mirai-zaidan.or.jp/file/digitalart_workshop_report20240305.pdf
富山学園の活動の様子は、学園webサイトのブログで読むことができます。
公益財団法人CTC未来財団webページ:https://mirai-zaidan.or.jp/
メールアドレス:office@mirai-zaidan.or.jp
南房総市立富山学園webページ:https://edu.city.minamiboso.chiba.jp/tomiyama
この記事を書いたのは…
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熊本生まれ、兵庫育ち。
国内・外を放浪したあと、2011年1月南房総に漂着。
築百年余りの古民家を改修しながら、犬、猫、ヤギとの生活を満喫中。
田んぼや畑だけでなく、イベント出店やライター業など、“暮らしから生まれる百の仕事をこなす”立派な百姓を目指して活動中。
◆安房暮らしの日常ブログ
https://awaawalife.com/
◆インスタグラム
https://www.instagram.com/awaawa_life/?hl=ja
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